乳脂肪低下 不飽和脂肪酸 水素添加説

ルーメン内の脂肪の消化として、まずTGが加水分解されてグリセリンと脂肪酸×3に分解されて。それで脂肪酸は、飽和脂肪酸はならそのまま小腸へ、そして「不飽和脂肪酸」はルーメン内で水素添加(脂肪酸の二重結合に水素をくっつけて二重結合をなくす)され「飽和脂肪酸」になる。というのはよく教科書にも書いてあることかと思います。

私は恥ずかしながら、「不飽和脂肪酸自体とそれが飽和化される過程の中間産物がルーメン細菌に悪!あとはゴチャゴチャでよくわからん」、程度の認識でした。化学式とかいっぱい出てくると面倒で見る気なくすし・・・

でももうすぐ夏だし!(?)不飽和脂肪酸の水素添加とか共役脂肪酸とかトランス脂肪酸とか、言葉の定義もよくわかってないし、それにまつわる乳脂肪低下とか、この辺の理解に腹を据えてトライしてみることにしました。

うしちゃん
うしちゃん

まずはおおよその概要

不飽和脂肪酸の消化と乳脂肪低下との関連性について

ルーメン内での不飽和脂肪酸への水素添加プロセスにおいて、中間体として共役リノール酸(CLA)が発生する。この中で特に3つの特定のCLAが体内に取り込まれ乳腺で脂肪合成酵素を阻害することにより、乳脂肪低下を引き起こすと考えられる。

Vet Clin North Am Food Anim Pract. 2014 Nov;30(3):623-42.Lipid feeding and milk fat depression.

そして「3つの特定のCLA」って具体的になに?と思って調べたのが以下です。

シスとトランスってそもそもなんだっけ・・・

すぐ忘れるのでcis-とtrans-(幾何異性体)についておさらい:

不飽和脂肪酸にはその一部に不飽和結合があって、不飽和結合(二重結合)は単結合と違って結合を軸にクルクル回転できない。そのため、二重結合をもつ化合物、は構造原子は同じだが位置がちがうシス―トランス異性体、という異性体をもつ可能性がある。このとき、C-C結合を結ぶ線に対して、同じ原子(原子団)が同じ側にあるとシス型反対側にあるとトランス型という。引用;https://kimika.net/y1iseitainbunrui.html

思い出してきました・・・高校時代、ガーリーな化学の木村先生(ゆるふわ系)が、「同じ原子をもってても、場所によって名称が変わってくるのでみんなで一緒にポーズして覚えましょお~」と言ってたのを・・・

はいシス―

トランス~

とやらされて、当時はバカにしてたのですが、覚えやすい気がする(こうして10年以上たっても思い出せるくらいですから・・・)

そしてトランス型の二重結合を1つ以上もつ不飽和脂肪酸を「トランス脂肪酸」とよぶ

不飽和脂肪酸の水素添加

やっと本題に・・・。

餌に由来する不飽和脂肪酸、特にリノール酸(C18:2)、リノレン酸(C18:3)は二重結合も複数あって、ルーメン細菌に水素添加されるのですが、それぞれ水素添加が進んだり途中で止まったり色々するので、中間代謝産物がめっちゃ多いし、それによって異性体の数もめちゃある。

Fig. 1. Main putative RBH pathways. When cis or trans configurations are not mentioned, it means that the various cis-cis, cis-trans and trans-trans configurations could exist. Thick arrows represent the major pathways [26]; thin arrows represent other putative pathways, as suggested by increases in the corresponding isomers during in vitro incubations of pure linoleic and linolenic acids [46]; dotted arrows represent RBH pathways including unknown 18:3 isomer intermediates. Not all putative FA are mentioned, and the numerous interconversions among 18:1 isomers [47, 48] are not represented.
ざっと図に出来るだけで、こんなにある
https://www.semanticscholar.org/paper/Diet%2C-rumen-biohydrogenation-and-nutritional-of-cow-Chilliard-Glasser/b7f652b079d06e8523e98ed6f1bb955b3dfcd795#paper-header
メジャーなのだけ抜き出すとこんなん

この水素添加に関わる細菌については色々調べられていて、特に有名なのはHarfootらが、生体内水素添加に関わる細菌群は2群あり、A群とB群が関わっていると記載。https://link.springer.com/book/10.1007/978-94-009-1453-7

A群細菌C18の脂肪酸異性化・水素添加化して一価不飽和脂肪酸(MUFA)に、B群細菌cis二重結合水素添加・飽和化してステアリン酸にすることが出来る

具体的にはA群細菌はまずリノール酸をcis-9,trans-11 CLAに異性化、その後水素添加をしてtrans-11 C18:1に変換する、そしてB群細菌がこれを水素添加する、こうして最後まで進むことができればPUFA(多価不飽和脂肪酸)を完全に飽和化する。

https://animalnutrition.imedpub.com/milk-fat-depression-etiology-theories-and-soluble-carbohydrate-interactions.pdf

PUFA(多価不飽和脂肪酸)過多のメニュー、配合過多のメニュー、パーティクルサイズやRUFAL、これらすべては上記の細菌との相互関係によって乳脂肪低下を起こす可能性があるとされています。

そもそもルーメン細菌がなぜ水素添加をするかというと、不飽和脂肪酸はルーメン細菌にとって毒なので”解毒”のため、という見方が主なようです。(あ、あとは水素分子の消費という側面も)

CLA:Conjugated Linoleic Acid 共役リノール酸

CLAとは・・・共役リノール酸とは、ルーメンにおいてリノール酸が変換、もしくは組織からの脱飽和、により生じる天然の構成要素で、リノール酸の位置的および幾何学的異性体のグループを表す。

https://animalnutrition.imedpub.com/milk-fat-depression-etiology-theories-and-soluble-carbohydrate-interactions.pdf
うしちゃん
うしちゃん

2つの2重結合がそれらの間に単結合を1個ずつはさんでつながってできた結合をもつリノール酸の異性体のこと

trans-10,cis-12CLA(C10とC12が二重結合、C11が単結合)とか trans-9,trans-11 CLA(C9とC11が二重結合、C10が単結合)とか

さらにトランス型の二重結合をもっているとトランス脂肪酸でもある

ルーメン内ではこの不飽和脂肪酸の水素添加の過程において、おおよそ20種類以上のCLAが合成されますが、そのうち乳脂肪低下を誘導するのは3つだけtrans-10,cis-12 CLA, cis-10,trans-12 CLA, trans-9,cis-11 CLA)。

これらの乳脂肪合成を阻害するCLAは、吸収されると乳腺に運ばれ脂肪合成に必要な酵素を邪魔して、乳脂肪合成を低下させます。

https://academic.oup.com/jn/article/138/2/403/4665060

CLAと乳脂肪低下の関係

※代替経路(Alternate Pathway)の「C18:1 trans-11」はおそらく「C18:1 trans-10」の 誤植と思われる
https://animalnutrition.imedpub.com/milk-fat-depression-etiology-theories-and-soluble-carbohydrate-interactions.pdf

通常の生体水素経路(正常経路)では、リノール酸のcis-9,cis-12二重結合複合体は、最初はcis-12の位置で異性化しcis-9,trans-11 C18:2を形成します(上図1.4)。cis-9,trans-11 C18:2は水素添加によりtrans-11 C18:1(バクセン酸)になります。

しかしRUFAL過剰、穀物過多、繊維不足などで、正常経路から赤色の代替経路に切り替わり、乳脂肪阻害物質であるtrans-10,cis-12 C18:2が生成されます

trans-10,cis-12C18:2乳脂肪合成の最も強力な阻害物質であるといわれていて、他にはcis-10,trans-12C18:2、それからtrans-9,cis-11 C18:2も乳脂肪低下を誘導します。


トランス脂肪酸説

ちょっと前の論文などを見ているとtrans-C18:1が乳脂肪低下の原因ではないか・・・

;trans-C18:1を第4胃に注入したら乳脂肪が下がった、とか、餌を急変させて乳脂肪を低下させると乳中のtrans-C18:1がめっちゃ増えたとか、な論文もチラホラあるのですが、逆にtrans-C18:1が増えても乳脂肪変わらず、といった報告もあったりして、いやいやtrans-C18:1というのは範囲が広すぎるから、trans-10 C18:1が原因じゃない?なんて説も出たりして。実際、trans-10 C18:1が直接的に乳脂肪を下げているわけではなさそうだということが分かってきて、このトランス脂肪酸説は否定されて、「水素添加説」が有力だという流れになってきたようですが、こういった研究が今の共役リノール酸のMFDの研究に繋がってきたということのようです。


うしちゃん
うしちゃん

不飽和脂肪酸をルーメン細菌が水素添加すると、その途中の経路でCLA(共役リノール酸)が作られること、その一部の3つのCLA(この3つはトランス型の2重結合をもつのでトランス脂肪酸のカテゴリーにも含まれる)が乳腺の脂肪合成を阻害する、と理解しました!

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