ホメオレシス ホメオスタシス 1

ついに来ました(どこだ)!

ホメオレシスについて、ちゃんと論文を読もうと思い、山下先生から教えてもらったJDS100周年の中のRegulation of nutrient partitioning to support lactationのRewiew文献をガイドにして、それぞれ引用文献を辿って読んでみたいと思います。

ホメオレシスについて初めて聞いたという人は、とても分かりやすい安井先生の文献をご参照ください、いつも通りこれは忘備録です。そうこのブログは基本、私が私のために書いてるんですね、すぐ忘れるから😢あとで、あれなんだっけ、って思ったときに便利・・・。

概略

まずはこちら、このレビュー文献を地図変わりに読み進めていきましょう!

・過去75年間で動物の生産性は著しく向上、牛1頭あたりの年間乳量は4倍以上に増加。

・このような歴史的な進歩の主な原因は、「栄養素の生産性への分配」にある。

・その調整に働くのは①分単位に作動する急性のホメオスタシス制御と、②長期的に作動して組織や身体のプロセスを調整適応を行う慢性的なホメオレシス制御、の2つである。

・この内分泌制御は、同化・異化ホルモン、ホルモン膜受容体、細胞内シグナル伝達経路の変化によって行われる。特にインスリンソマトトロピンは、栄養輸送の2つの重要な制御因子。

https://www.journalofdairyscience.org/article/S0022-0302(17)31034-2/fulltext

はじめに

・1940年代から栄養、管理、遺伝などデイリーサイエンスの発達とともに乳量はみるみる増加、1920年代~1940年代初頭までの牛1頭あたりの年間平均乳量約2,000kgであったが、現在の米国の牛群は年間平均10,000kg

・歴史的な乳量の増加は、選抜と遺伝的改良(50~66%)、残りは栄養と管理の進歩によるもの

https://www.journalofdairyscience.org/article/S0022-0302(17)31034-2/fulltext
たしかにこれはすごい・・・

USDAのサイトでは乳量平均などが見れる。面白い。ためしに1頭辺りの乳量を見てみた↓

2011-2020までの1頭あたり乳量はアメリカ国内平均でこんな感じのよう 

日本も気になったから調べてみた。あ、、、あれ、日本、あまり伸びていない・・・?!?!

2011年と2019年を比べると6.9%増えていましたが、伸び率はアメリカほどじゃないです。

ソースはJミルク https://www.j-milk.jp/gyokai/database/keiei-kiso.html#hdg5

・ 実際米国の一部の酪農場では、1頭の年間平均乳量が 14,000kg を超えている

・現在の米国記録はウィスコンシン州の Ever-Green-View My Gold-ET:365 日乳量が 35,175kg

https://www.dairyherd.com/news/new-national-milk-production-record-set

・「泌乳」というのは 「栄養素の生産性への分配」 をドラスティックに再編成するもの

・乳腺の合成能力はとても高く、栄養の利用、代謝という面から、Brown, 1969は、乳房が牛の付属物ではなく、牛が乳房の付着物と考えるべきだと提唱している。

https://www.journalofdairyscience.org/article/S0022-0302(17)31034-2/fulltext

この1969年のBrown博士の「The conversion of nutrients into milk」という引用文献は読んでみたかったけど、探しても入手できなそうでした。残念。「牛が乳房の付着物」

すごいパワーワード!

牛飼いは虫飼いとか、ルーメンを制する者は牛を制する、とかは聞くけど。牛を飼ってたと思いきや、オッパイ(+牛)を飼ってた!だなんて。

このような上記で見てきた生産効率の向上について考えるのに、泌乳を支える 「栄養素の生産性への分配とその調整」 について、これまで調べられてきた歴史はこんな感じ↓↓↓

Table A1Major milestones in the study of nutrient partitioning to support lactation:「泌乳」をサポートする栄養素の分配に関する研究の主要なマイルストーン

DateMilestone マイルストーンReference
1923Insulin’s role in milk composition is defined.
乳成分におけるインスリンの働きが定義される
1929Concept of homeostasis is elucidated.
ホメオスタシスの概念が明らかになる
Cannon, 1929
1932Pituitary extract injected into cows.
牛に下垂体抽出物の注入
1945First National Research Council report: Recommended Nutrient Allowances for Dairy Cattle.
National Research Council(米国研究評議会)の最初の報告。 「乳牛の推奨栄養許容量」
1953Annual milk/cow is approximately 2,500 kg.
年間乳量平均2500kg/頭
https://quickstats.usda.nass/gov/
1960sRole of volatile fatty acids (VFA) in dairy cow metabolism is defined.
乳牛の代謝における揮発性脂肪酸(VFA)の役割が定義される
1960sMammary balance sheet of nutrient uptake and use.
栄養素の取り込みと利用の乳腺の収支(バランスシート)について研究される
1960sProduction of VFA by rumen fermentation established.
ルーメン発酵によるVFAの生産が確定
1963Insulin administration is shown to decrease milk yield.
インスリン投与が乳量を減少させることが示された
Mid-1960s–1970sBiochemical pathways of milk fat synthesis are elucidated.
乳脂肪合成の生化学的経路が解明される
Mid-1960s–1970sBiochemical pathways of milk lactose synthesis are elucidated.
乳糖合成の生化学的経路が解明される
1970sBiochemical pathways for milk protein synthesis are elucidated.
乳蛋白合成の生化学経路が解明される
1977Annual milk/cow exceeds 5,000 kg.
年間乳量平均5000kg/頭
https://quickstats.usda.nass/gov/
1980Concept of homeorhesis is proposed.
「ホメオレシス」の概念が提唱される
Bauman and Currie, 1980; Bauman, 2000
1982First use of recombinant bovine somatotropin (bST).
牛ソマトトロピン(bST)を初めて使用
1982High-yielding cows are shown to have decreased insulin and increased somatotropin.
高泌乳牛ではインスリンが減少し、ソマトトロピンが増加することが示される
1980sNutritional, environmental, and genetic effects on milk composition are demonstrated.
乳成分に対する栄養的、環境的、遺伝的な影響が示される
Late 1980sMetabolic modeling.
メタボリックモデリング
1994US Food and Drug Administration approves recombinant bST.
米国食品医薬品局がリコンビナントbSTを承認
Late 1990s–early 2000sBasis for diet-induced milk fat depression is defined.
飼料誘発性乳脂肪低下の根拠が定義される
 2014Annual milk/cow exceeds 10,000 kg
年間乳量平均10,000kg/頭
 https://quickstats.usda.nass/gov/
引用 https://www.journalofdairyscience.org/article/S0022-0302(17)31034-2/fulltext

生産効率

変動要因

まずはこれだけ数十年で搾乳牛の生産効率がめちゃくちゃ高まってきたことはどんな要因があるのでしょうか。また高泌乳牛と低泌乳牛では何が違うのでしょうか。

・泌乳牛のエネルギーバランスデータを分析するための多変量解析フレームワークを開発し、泌乳牛の維持必要量とエネルギー利用の部分効率の長年の変化の可能性を調査した。

・その結果、「維持のための正味エネルギー要求量」と、「乳生産と組織増加のために飼料エネルギーを利用する効率」は、最近の数十年間で増加していたが、「乳生産のために体内貯蔵物を利用する効率」変化しなかった

https://www.journalofdairyscience.org/article/S0022-0302(15)00260-X/fulltext

まず体重が明らかに増えているので、維持エネルギーも増えるよねぇ。。

あとはエネルギー効率も高まっていたようですが、体蓄積物(脂肪や筋肉)をエネルギー利用する効率はむかーしから変わっていないようです。

栄養の利用の部分的効率を評価するとこれらの生物学的プロセスは動物間の変動のわずかな原因でしかなく、それらの変化は生産効率の向上にほぼ寄与していないことがわかる

・栄養の利用効率はこの数十年でほぼ変わっていないが、牛ごとのばらつきの要因栄養の生産性への分配である

高泌乳牛吸収した栄養素の大部分を乳腺に送り乳合成を行うため、そのためDMIが多くなる低泌乳牛はDMIが少なく、たとえ多く摂取してもそれは乳合成ではなく、過剰な脂肪蓄積に利用される

・つまり、栄養消費量の増加生産性の増加である;乳合成増加飼料摂取量増加をもたらす。

https://www.journalofdairyscience.org/article/S0022-0302(17)31034-2/fulltext

高泌乳牛と低泌乳牛の違い、のひとつに「栄養の生産性への分配」への違いがあるようです。

栄養の生産性への分配

・乳牛の生産効率の向上は、消化と栄養吸収、維持必要量、代謝エネルギーの生産への利用、または栄養分配の変化の結果として起こる可能性がある。

消化率の向上エネルギー効率の向上は、乳量向上に寄与せず、牛間の変動はほぼ見られない

・一方、個々の牛では、飼料摂取量や体組織への栄養素の分配大きく異なる

泌乳期の栄養分配飼料摂取量の変化は、恒常性バランスを維持しながら各組織の栄養要求に対応する複雑な制御ネットワークによって調整されている。したがって、将来的な生産効率の向上は、これらの制御がどのように作用するかを理解できるかどうかにかかっている。

https://academic.oup.com/jas/article-abstract/60/2/583/4665594?redirectedFrom=fulltext

瞬間的なホメオスタシスを維持しながら、ダイナミックな代謝変化を長期的に制御して泌乳をコントロールするのがホメオレシス、という理解でしょうか。

・1944年には平均的な牛のMEの69%が維持に、残り31%が乳合成に利用されていた。対して2016年ではMEの35%が維持に、残り65%が乳合成への利用になっている。


・前述の現在の米国記録のEver-Green-View My Gold-ETでは、維持にはMEの16%乳合成に84%以上を使用していた。

・このように牛1頭あたりの乳量が増加すると牛の維持に使われるMEの割合が比例して減少する;エネルギーの利用効率が高くなる。;“dilution of maintenance”

・この数十年でエネルギーの利用効率は劇的に高まってきたものの、一方で飼料タンパク質の利用効率はそれほど劇的には上がっていない。

https://www.journalofdairyscience.org/article/S0022-0302(06)72196-8/fulltext https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1871141311000953?via%3Dihub https://academic.oup.com/jas/article-abstract/60/2/583/4665594?redirectedFrom=fulltext これは有料だったので明日以降購入して読む!

生産性とストレス

酪農生産が進歩し乳量が増えるたびに、牛が「無理をしすぎて」代謝ストレスを引き起こし、牛の健康と幸福が損なわれているのではないかという懸念が示されてきた。

50 年以上前、John Hammond博士は泌乳期生理学のレビューの中でこの懸念を支持するものはない、その懸念は妥当ではないとした。彼は「乳生産の生理学的限界は、乳生産に必要な特定の栄養素に関する我々の知識によってのみ制限される」と結論づけた。

Hammond J.Physiological limits to intensive production in animals.Br. Agric. Bull. 1952; 4: 222-224

引用元に記したハモンド博士の元論文も1952年のもので、探しても入手できなかった・・・。

読んでみたかった。そうだよね、今でも高泌乳牛で濃い餌をあげて乳量を出すことは牛に負荷をかけすぎているという人もいるし、実際そういう牛群(あぁツライよね、濃い餌キツイね・・・)もいる。

でも一方で、濃いメニューではあるけど飄々ともりもり食べて、飄々と乳量を出す牛群もいるよねぇ、やっぱりそういう牛群は改良に力を入れている(つまり改良以外の部分もかなり不足ない牛群)牛群だよなぁ・・・。ほんとそういう牛群って、見た目も美しくて(むだがない)、過不足なく美しいんだよなぁ、、、で、飄々としてる印象を受ける。

その後、Baumanら(1985年)、Knightら(2004年)、Reynoldsら(2004年)が乳生産の生物学的限界を再評価した結果、Hammondと同様の結論に達した。そして実際、過去半世紀の間、乳量は年間約140 kg/頭の割合で増加している。

https://academic.oup.com/jas/article-abstract/60/2/583/4665594?redirectedFrom=fulltext https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15190941/ https://www.cambridge.org/core/journals/bsap-occasional-publication/article/abs/metabolic-consequences-of-increasing-milk-yield-revisiting-lorna/50A511321685C17E73570C00CB7AFDE3

レビュー文献には乳量はまだまだ!伸びる!今の世界記録の35,000kgが潜在的上限と思われ、将来の牛群平均がこのレベル、つまり今の平均乳量の3倍以上になることもあるのではと書いてありました。

ほんと?!凄いな。そんなポテンシャルがあるのかぁ。。。

その他、レビュー文献の牛の生産性とストレスという項目には、

高い生産水準、高い生産効率を求める事、そういったことを求めた遺伝改良や栄養管理アプローチは環境負荷、牛の福祉やウェルフェアに反する、牛に生物学的に過度な負荷がかかる、と言われることもあるが、実際は逆だ!

酪農場の生産性向上が持続可能性と収益性を改善することが実証されている、遺伝改良と管理改善の進歩による乳量増加は生物学的コントロールに成功しているためであり持続可能

みたいなことが書いてあった。

つまり、しのごの言ってないで、もっとガンガン!乳出すように!お前ら言い訳しないで牛のポテンシャル高めて、ポテンシャルを最大限発揮させる管理しろや!という著者からのメッセージだと理解(乱暴)。

今日はここまで!

コメント

  1. 内田勇二 より:

    「乳生産の生理学的限界は、乳生産に必要な特定の栄養素に関する我々の知識によってのみ制限される いい言葉 これに環境要因を足して考えるとき、農場でやらなければいけないこと、私たちがやらなければいけないことがまだまだあると考えさせられますね。
    乳量の限界は農場を取り巻く人で決まってしまうのか?もっと精進せねば

    このブログ 有料にした方が良いですよ。価値があります。

    いつも非常に面白く読ませていただいております
    上田先生に感謝致します。今後も頑張ってください。

  2. Risa より:

    本当にそうですね、乳量の限界は農場を取り巻く人で決まってしまうという側面はあると思います。後は遺伝的な牛のポテンシャル?でしょうか。

    ううふ、そう言っていただけるのはとても嬉しいです!

    でも仕事のことは書けない(書いちゃダメと会社に言われているので)ので、
    一般に公表されている知識は書けても自分の経験やノウハウは書けないので、そうすると有料化するほどのものにはどう頑張ってもならないかなと

    こうしていろんな方に来ていただいて、ディスカッションの場としていただけるのが一番嬉しいですね。

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