以下は、Calf Note #228 – Recent research on cryptosporidiosis, part 2 – Calf Notes.com を翻訳したものです。原文著者Dr. Jim Quigley の許可を得て日本語訳を掲載しています。 引用論文の出典元は原文をご参照ください。
結論: 7 日目で クリプト陽性だった子牛は、7 日目で陰性だった子牛に比べ、 49 日目(- 4kg)および 77 日目(- 8kg)で体重が減少 。クリプトスポリジウムの影響は子牛にとって非常に長期的な悪影響を与える
以下本文
2回目のクリプトスポリジウムに関する記載では、ゲルフ大学の研究を要約し、C. parvum、ロタウイルス、コロナウイルスが若齢子牛の健康に与える影響について説明します。
研究内容
研究者らは、198 頭の子牛をモニターしました。 子牛は地域(カナダ、オンタリオ州)の酪農場から生後 3 ~ 7 日で施設に到着しました。 到着時に血清総タンパク質が測定された。 子牛には 代用乳を給与し、56 日齢で離乳し、その後、5つのグループに分けられ77日齢に試験を終了しました。
最初の28日間は毎日糞便の状態をスコアリングし、0日目、7日目、14日目に糞便を採取した。
糞便サンプルはCryptosporidium parvum、bovine rotavirus、bovine coronavirusの有無について分析された。 また、0 日、14 日、49 日、56 日、77 日目に子牛の体重を測定した。
77 日間の測定期間中、獣医による治療回数、下痢の発生率、死亡率が記録された。 研究者らは、各菌の有病率、下痢の発生率、死亡率、および疾病が成長に及ぼす影響について評価しました。
結果
本試験に登録された子牛のうち、25%の子牛の血清総蛋白(屈折計で測定)<5.1 g/dlであり、初乳からの受動的免疫移行は失敗と判断されました。
到着後0日目、7日目、14日目の各菌の有病率をFigure 1に示します。
C. parvumの有病率は、各日でそれぞれ6、38、20%であった。

この研究で注目すべきは、ロタウイルスの有病率が試験期間中非常に高かったことと、コロナウイルスの有病率が7日目から高かったことである。
試験中、多くの子牛が下痢をしました。
全体として、試験期間中、84% の子牛が臨床的な下痢で治療を受けました。 C. parvum、ロタウイルス、コロナウイルスに加えて、試験期間中に子牛は Salmonella dublin の集団発生に悩まされました。 したがって、下痢の発生はC. parvumだけでなく、複数の生物に関連している可能性が高いです。
図 2 では、0 日目に C. parvum が陽性だった 12 頭中 6 頭(50%)の子牛が下痢をしていたことがわかる。 crypto陰性の子牛181頭中、下痢をしたのは37頭のみであり、到着時の下痢の発生は主にcryptoの存在に起因していることが示唆された。
しかし、生後 7 日目までには、クリプト陽性か否かに関わらず、85%以上の子牛が下痢をした。 これは、牛舎内で全ての病原体が急速に伝播し、子牛が複数の病原体に感染したためと思われます。

C. parvum の感染が成長に与える影響とは?
図 3 に示すように、7 日目で Crypto が陽性だった子牛は、7 日目で陰性だった子牛に比べ、 49 日目(- 4kg)および 77 日目(- 8kg)で体重が減少していました。

これらのデータから、下痢を引き起こす生物に感染すると、病気や死亡率が高くなり、成長が遅くなることが明らかになった。 子牛が下痢または重度の下痢をした場合、下痢の程度が低い子牛と比較して、体重が15kg以上低くなっていた。
結論
本研究の結果、子牛(grain-fed veal)において、C. parvum を含む感染性生物の発生率が示された。
この高い発病率は普通ではなく、感染症に感染しやすい非常に若い子牛をグループで輸送することに伴うリスクを反映しています。
C. parvum の影響については、子牛が crypto に感染すると、下痢の発生率が高くなり、死亡率が上がり、成長が遅くなることがデータから明確に示されてい ます。
到着7 日目に C. parvum が陽性だった子牛は、77 日目で体重が 8kg 減少していることから、この微生物は子牛の成長に長期的な影響を与えることがわかります。
本文終了。
今回の引用文献はこちら
おおお、ついに待っていました、クリプトのその後の成長への影響って実際どれだけなの?という問いに答えられず早数年。ついに、体重できちんとそれを出してくれる論文が!
元文献をたどったところ、
・7 日目に C. parvum が陽性だった子牛は、7 日目に C. parvum が陰性だった子牛よりも 49 日目 (-4.05 kg, 95% CI -0.56 to -7.55; P = 0.02) および 77 日目 (-8.06 kg, 95% CI -4.45 to -11.67; P < 0.001; Figure 5 a) の BW が低値となった。
The effect of Cryptosporidium parvum, rotavirus, and coronavirus infection on the health and performance of male dairy calves – Journal of Dairy Science
・7日目にBCoV(コロナ)が陽性だった子牛は、7日目にBCoVが陰性だった子牛よりも49日目のBW(-4.57kg、95%CI -1.19~-7.96;P = 0.008)および77日目(-7.48kg、95%CI -3.97~-10.98;P < 0.001; 図5b)が低値であった。
The effect of Cryptosporidium parvum, rotavirus, and coronavirus infection on the health and performance of male dairy calves – Journal of Dairy Science

**7日目に陽性と判定された子牛と陰性と判定された子牛の間で有意な所見(P < 0.05)
それからもうひとつ今回の本編で引用されていた複数文献の多変量解析を行いC. parvum感染リスクを評価した文献もとても面白かったので紹介↓↓
C. parvum感染のリスク因子:ほかの子牛と接触できる機会が多い場合、牛群サイズが大きい場合、有機農法の場合、C. parvum 感染のリスクが増加することを示唆した。また硬い床材は感染を低減させ、暖かく湿った気候の時に感染しやすくなる傾向があった。
→硬い床材:これは主にコンクリートとそれ以外を比較した色々な文献がもとになっている様子。ただし硬い床は動物福祉上推奨はされない、またその洗浄の仕方による感染性への影響については統計的な検証は出来ていない。
→気候:Urieら(2018)は、感染リスクに関連する温度-湿度指数を構築し、温度-湿度の高い月に生まれた子牛は感染リスクが高かった:米国内の色々な地域帯を含む研究でも、高温多湿の月に生まれた子牛はC. parvumの感染リスクが高いとされる。
そのほか、現状明確なエビデンスとはされないものの面白かった項目
・母子分離の時間、特に黒毛和種繁殖牛だと早期母子分離でも3日程度一緒だったりして、母牛からクリプトがきてるのかも?とかって生まれたらすぐ離す農場もあったり、逆に親付け期間を長くしてみている農場もあったり。
ここでは酪農現場ですが、母子分離のタイミングもリスクファクターとして解析したサーベイランスを2つ紹介しています、が、結論は現状「出産後母牛と過ごす長さとクリプトスポリジウム感染に関するエビデンスは明確なものはない」。
①Trotz-Williams ら(2008)では出生時の分離にクリプトスポリジウム感染に関する影響はなかった
②Silverlås ら(2009b)では母牛との同居が長い(最大 4 日)ほど保護効果が高くなった。出産後「すぐに」引き離す場合と比較して、4 日間まで一緒にいると C. parvum 感染のリスクが OR 0.11 (95%CI 0.02-0.52) に減少することが示されている。
Prevalence and associated management factors of Cryptosporidium shedding in 50 Swedish dairy herds – ScienceDirect
Association between management practices and within-herd prevalence of Cryptosporidium parvum shedding on dairy farms in southern Ontario – ScienceDirect
・品種
乳牛の品種間ではC. parvumに対する感受性に有意差があることを明確に支持するものはない。ただし「純血種」の動物(純種対交雑種の定義はない)が交雑種よりもリスクが高いことを報告したサーベイはある。
Systematic review of modifiable risk factors shows little evidential support for most current practices in Cryptosporidium management in bovine calves | SpringerLink
・初乳
初乳の給与と感染リスクの関連性について以下記載するが、この一連のエビデンスは決定的なものではない。
🌟初乳の有無:4 つの論文で、初乳を与えない場合と比較して、初乳を与えることが有効かどうかを検討しています。Matoock ら (2005) だけが、初乳に感染予防効果があると報告 (OR = 0.5、分散なし)。質の高い研究 (Trotz-Williams et al. 2008) は初乳あり対初乳なしを評価し、初乳には効果がないことを明らかにした。
🌟初乳の給与方法(親から直接吸うか、ボトルで給与するか):3 つの研究で、初乳給与方法の違いが、感染への影響があるか否か評価している。
Matoock ら (2005) はボトルフィーディングの方がリスクが高いとしています (OR = 3.1)が、Trotz-Williams ら (2007) と Silverlås ら (2009b) はボトルフィーディングは感染リスクに影響を与えないとしてい ます。Silverlås ら(2009b)(影響なしと報告)は、哺乳瓶による給与と親からの授乳を評価した唯一の質の高い研究であった。🌟初乳の滅菌処理と未処理の比較
Weber ら (2016) は、殺菌していない初乳は C. parvum に対して予防的であるように思える (OR 0.01, 95%CI 0-0.52) としましたが、唯一質の高い研究である Silverlås らは、殺菌していない初乳の摂取が予防的であるとは認められませんでした。
給与方法、これは母牛の汚れ方にもよると思うので明確なサーベイは難しそう。母牛の乳房がとても汚れていたらそれに口をつけて初乳を飲むのはハイリスクだろうけど、乳房がとてもきれいであれば目の前に、すぐ、立ち上がって親から初乳を飲めるのはポジティブな方向に働く可能性もありそう。
ただ個人的にはめちゃくちゃ良質な初乳をしっかりあげている農場でもクリプトはゴリゴリ出るので初乳をしっかりあげていれば予防できるかといわれると微妙だと思う。でも、回復は早い気がするけど。。あとは未殺菌のほうが良いかもしれない可能性について、初乳中の生きた免疫細胞が生後数日であれば体内で生きていて、それが免疫を上げる?のかなとも思ったり。
・代用乳の利用
2 件の研究で、(生乳ではなく)代用乳を使用すると、オーシスト排出のリスクが高くなることが分かった。
Díazら(2018)は、代用乳を使用した子牛の感染オッズが高いと報告し(OR 3.59, 95%CI 1.2-12.2)、Trotz-Williamsら(2008)は、7日齢以前の代用乳使用は高い感染オッズと関連しているとした(OR 1.40, 95%CI 1.06-1.85 )。
一方で、他の3つの研究(Imre et al. 2015; Trotz-Williams et al. 2008; Urie et al. 2018)は、代用乳の使用は病気のリスクにほとんど差がないことを明らかにした。
代用乳の使用がリスクを高めるという証拠はまちまちであり、結論は出ていない。このリスク因子はさらに調査する価値がある。
などなど。
環境要因は大きそうですが、農場によって環境は様々、これらを正確に要素として解析するのはなかなか難しそうですが、少しでも感染予防に明確なエビデンスを持って立ち向かいたいですよね・・・!!!
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