Calf Note #96 – Pasteurized colostrum
以下は、http://calfnotes.com/pdffiles/CN096.pdf を翻訳したものです。原文著者Dr. Jim Quigley の許可を得て日本語訳を掲載しています。 引用論文の出典元は原文をご参照ください。
内容総括:初乳のパスチャライズにより免疫グロブリンはやや減少する、それをふまえてパスチャライズ時は品質の良いものを多く給与すべし。
はじめに
初乳の重要性はみんな理解しています(すべきです)。本稿も含め、子牛の健康への初乳の重要性についてはものすごい量の情報があります。そのため初乳の重要性はよく知られています。
また、初乳はたくさんの重大な病気を引き起こす重要なベクターであることも知られています、たとえばヨーネ病、サルモネラ、マイコプラズマ、リステリア、大腸菌、など。生まれたての子牛が汚染された初乳を飲むと、まだ免疫システムが未発達のため疾病に対して感受性が強いです。
汚染された初乳から感染リスクを下げる一つの方法は、子牛への給与前にパスチャライズ、低温殺菌することです。
パスチャライズ(低温殺菌)とは?
パスチャライズの工程は、1864年にルイ・パスツールが開発したものが長年使われており、当時はフランスでワインの汚染による疾病伝播を防ぐために用いられました。パスツールの方法(彼の名にちなんでパスチャライズと名づけられました)が出来る前は、殺菌、冷蔵、ハンドリングの衛生的な方法が開発されておらず、ワインや牛乳を飲むことは少なからず危険でした。
パスチャライズは対象物に混入した細菌を減らすために一定時間、液体を高い温度にする方法です。これは液体中(ビール、ワイン、牛乳、果物ジュースなど)に含まれる、人間の病気の原因となりうる細菌を殺すために開発されました。
パスチャライズは殺菌ではなく、低温殺菌乳は測定可能な程度の細菌は含まれていますが加熱により低レベルまで減っています。大事なのは病気の原因となる細菌をパスチャライズで効果的に排除することです。パスチャライズは1800年代から広く普及し、食品安全面から最も重要な発展であり、疾病の伝播を低減させ何百万もの命を救ってきました。
パスチャライズの種類
低温殺菌乳には主に2つ種類がありーバッチ低温殺菌と高温短時間殺菌(HTST)-です。バッチ低温殺菌(低温保持殺菌)は1バッチごとに行い63℃30分加熱後、冷やされます。HTSTの工程は、生乳を72℃15分暖めます、このタイプの場合は加熱されたコイルやチューブ内に所定時間生乳を通して循環させることでライン内での低温殺菌が可能です。
初乳の低温殺菌にあたり一番の検討事項は機能性蛋白、主に免疫グロブリンの破壊です。これまで行われた研究は、IgGの破壊への低温殺菌の効果を調査したものがほとんどでした。Godden ら(2003)は、バッチ低温殺菌(63℃、30 分間)は、低温殺菌前の初乳サンプルと比較し、初乳の IgG 含有量を平均 26.2%減少させたことを報告しています。バッチの大きさの影響もあり、大バッチ(95L)では、小バッチ(57L)よりも初乳のIgG値が大きく減少しました。

Meylanら(1995)はラボベースでバッチ低温殺菌による初乳中のIgGの増減への影響を調査しました。低温殺菌によるIgGの減少は12%以上でした。
これらの結果から、低温殺菌は現状では新生子牛に適切な量のIgGを供給するのに最適ではなさそうです、しかしIgGを全く、もしくはほぼ壊さない低温殺菌方法を提案している企業もありますが、この記事を書いている時点では、IgGを破壊せずに低温殺菌を可能にするパスチャライズ工程の改善に関する研究は発表されていません。

他の蛋白質
パスチャライズを研究しているほとんどの研究では、パスチャライズによる損傷の程度を判定するためにIgGと特定の指標を使用しています。
しかし、初乳には他にも熱に曝されると損傷を受ける可能性のあるタンパク質がたくさんあります。これらの “他の “タンパク質に対する加熱の影響を調べた研究者もいます。
例えば、ドイツの研究者(Steinbach et al., 1981)は、初乳を 55℃に 30 分間加熱しても、IgG、IgMいずれも影響しないが、60℃で10分間の加熱でIgMが劇的に減少したことを報告しています。他の研究者(Liebhaberら、1977)は、パスチャライズによりヒト初乳中のIgAが33%減少し、免疫細胞が50%以上減少したことを報告しています。一方、Janssonら(1985)は、成長因子EGF(上皮成長因子)の活性はパスチャライズによって影響を受けなかったと報告しています。
初乳全体の品質に及ぼす低温殺菌の影響をより理解するためには、もっと多くの研究が必要です。
初乳のパスチャライズの落とし穴
・農場での初乳の低温殺菌の最大の課題は、装置の適切なメンテナンスに加え、適切な時間と温度での殺菌が行われるよう適切に調整することかもしれません。多くの大規模な酪農場や子牛牧場では、自家製の装置が一般的に使用されています。全ての機器は、自家製であろうと購入したものであろうと、適切に校正され、製造元の仕様に厳密に従わなければなりません。
・質の悪い初乳を低温殺菌に使ってはいけません。初乳には、ブツや血液の混入、細菌の過剰な繁殖があってはいけません。低温殺菌は細菌数を減らすものであり、初乳を殺菌するものではないことを覚えておいてください。初乳に細菌数が多い場合は、通常の低温殺菌では全ての病気の原因となる細菌を殺すことができない可能性があります。
・初乳を殺菌すると、初乳が濃くなることがあります。これはおそらく、タンパク質が変性することにより不溶性となり濃縮すると思われます。
・極端なケースでは、初乳のタンパク質が大きな塊となり機器を詰まらせ、壊れる可能性があります。これは、初乳のタンパク質を高温にさらす HTST 低温殺菌の場合に特に当てはまるようです。凝固したタンパク質は子牛に与えるのが難しく、もちろん免疫の付与もできなくなるので、初乳は単なる栄養源となります。
・装置のコストは多額になる可能性があります。低温殺菌装置を適切に購入、設置、利用するためには、投資を行う前に投資コストとプロセスの管理コストを慎重に評価し、判断を行うことが重要です。
Goddenら(2003)は、初乳のパスチャライズプログラムとして以下のステップを勧めています。
- コロストロメーターで測定し高品質の初乳(目標:IgG60mg/ml以上)のみ使用する
- 衛生的に初乳を搾乳、保管し、パスチャライズ前も冷蔵保管する。パスチャライズ後すぐに給与しない場合も冷蔵保管する。
- パスチャライズは少量、小さいバッチ単位で行う(最大でも57L)
- 定期的にパスチャライズした初乳の細菌培養を行い、パスチャライザーの機能をモニターする。
- 毎日の機器の洗浄と機器のメンテナンスに留意する。
- 分娩後可能な限り速やかに4Lの初乳を給与する。
- 1回目の給餌から6時間以内に2Lの初乳を2回目に給餌する。
- 子牛の疾病罹患率、死亡率、血清IgG濃度を定期的にモニターする。
- 子牛の感染症を最小限に抑えるために、分娩房、給餌手順、環境中の衛生管理に細心の注意を払います。
まとめ
もしあなたが農場で初乳のパスチャライズを行う場合には、初乳IgG濃度の低下を考慮し、不足分を補うために給与量を増やすべきです。そもそも質の悪い(IgG 値が低い)初乳を使うつもりであれば、低温殺菌ではなく、別の初乳の供給源を探すか、初乳代替品を探すことを検討してみてはどうでしょう。
Godden氏らの研究によると、バッチ低温殺菌はより有用なアプローチであるように思われるが、パスチャライズはどちらの方法も管理方法にとても鋭敏に反応するようです。初乳中の IgG やその他の機能性タンパク質は、熱によりとても容易く損傷、破壊されます。現状報告されている研究を元にすると、ほかにチョイスが無い場合以外は、パスチャライズしないことを勧めますが、初乳を低温殺菌する場合は注意が必要です。
翻訳ここまで。
ヨーネ病対策には・・・
上記には63℃30分という記載がありますが、ヨーネ病対策には60℃60分の加熱が必要なことも大事なことなので忘備録!
以下、雑記
ジムがこの記事を書いたのは2003年ですが、2020年の今、日本で初乳をパスチャライズして給与している農場は全体の何割程度なのでしょうか。
彼はあまりパスチャライズした初乳の給与を推奨しないスタンス、ですが、個人的には出来る余地があるならした方が良いと思っています。そしてやはり行う場合はしっかり市販の機材(オリオンのとか)買った方が絶対にいい!酪農家さんとパスチャライザーを自作しようとしましたが、うまくいかなかったです(私のDIYが下手なだけだった可能性も・・・)。
ただしラクトクライン仮説(初乳中のホルモンやら何やらまだよくわかっていない有効成分の影響で、初乳を多く給与することでその後の成長、生産性にも影響が出るという仮説)を元にすると、やはり成長因子なども蛋白ですし、熱によって壊さない方が、初乳のまだ解明されていない有効成分の働きにも影響が出にくいのかな・・・やはり初乳の中身全部を最大活用と思うとパスチャライズせずに給与出来ればベストなのかなぁ・・・
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