搾乳牛のTMRの飼料設計でCPというのは大事だけど、今やすっかりMPのほうが重要視されているかもしれない…??まぁ、皆さんどっちも見てると思いますが…
そもそも、昔はTMRのCPは乾物で16~16.5%が目安だったのに、MP充足率が100-105%であれば結果的にCPは乾物で15%代になっていることも少なくない。。。
NRC2001でAP(吸収蛋白)という言葉が代謝可能蛋白(MP)に置き換わり、蛋白各分画A-Cまでの消化速度(kd)と通過速度(Kp)を加味して、分解性蛋白DIPがルーメン内分解蛋白(RDP)に、非分解性蛋白UIPがルーメン内非分解性蛋白(RUP)に置き換わり。。。
改めてTMRのCPレベルについて最新の研究がJDSにあったので、少しCPにまつわる色々を振り返ってみたいと思います。
日本飼養標準2017乳牛

初産、2産で40キロ以上目指すのであれば乾物CP16%必要という計算になりそう。また3産以上でもピーク時はCP16%以上は必要そうですね。
日本飼養標準って乳牛版、あまりちゃんと見たことがないので新鮮です。県の畜産技術センターとかは飼養標準で設計しているから、TMR設計内容をTDNとかで教えてもらったりするんだけど、TDNって乳牛では全然ぴんと来ない…!!(ごめんなさい)
ペンシルバニア大学のTMR濃度の推奨水準
細かく各TMR設計推奨値が書いてあって、昔から参考にしていました。日付を見ると2016年と書いてあるので、7年前か・・・これだと顕著に泌乳初期のCPレベルを上げています。

CNCPS Biology Model ver7


CNCPS7では、セミナー資料を見る限り、窒素のフローがより一層精密になっている様子。あとアミノ酸がより充実してそう。これはこれでまたCNCPSver7についてはリンク先のバルケムセミナーをちゃんと見て勉強しようと思います。
現状の蛋白(分解性、非分解性)の過不足とエネルギーとのバランス
いわずもがな、よく知れた図です。が、飼料中のCP、溶解性蛋白・バイパス蛋白のバランスを考えるのには、やはり役に立つ。

で、やっと本丸に
乳期と飼料中CPレベル
概略 Production performance of Holstein cows at 4 stages of lactation fed 4 dietary crude protein concentrations – Journal of Dairy Science ウィスコンシンの報告です。
飼料中の粗タンパク質(CP)に対する乳牛の反応は、泌乳期によって異なる可能性がある。ホルスタインの経産牛(n = 64)を泌乳日数で分けて、DIM 86日 ± 14.9 (初期)、119日 ± 10.0 (中期前期:mid-early)、167日 ± 22.2 (中期後期:mid-late)、239日 ± 11.1 (後期)を、同じ群内で、4 × 4 要因配置法に従って 13.6, 15.2, 16.7, 18.3% CP (乾物ベース)のTMR 4 群にランダムに割り振った。
飼料中の CP 濃度に対する反応は線形、二次、三次であり、DIM を通して 16.7%CP の飼料を給与した場合に最大値となった。
回帰分析によると、飼料中の CP 濃度が 16.3 ~17.4%であれば、泌乳前期および中期に生産量を維持できることが示唆された。
泌乳後期には飼料中の CP 濃度を 15.7 ~ 17.1%まで減らすことが可能であった。泌乳後期では CP 濃度を高くすると牛の成績にマイナスの影響を与えることが示された。
泌乳期の各段階で牛の成績を維持するための飼料中の CP 濃度に明確な幅があることが示唆された。
以下、文献を読んでいく中で私のメモ。すべて文献のディスカッションからの引用。
あと、本文献の前提を共有:泌乳ステージで語られるときは、それぞれの具体的な数字も要確認: DIM 86日 ± 14.9 (初期)、119日 ± 10.0 (中期前期:mid-early)、167日 ± 22.2 (中期後期:mid-late)、239日 ± 11.1 (後期) 。そして、平均DIM28-30kgの、早期では平均49.3kg、中期前期で平均49.7kg、中期後期で平均44.8kg、後期で平均37.4kgの牛群です。

Figure3について: 多重回帰予測モデルから得られたパラメータ推定値を用いた、飼料 CP% および DIM に対応する DMI 予測値(A)および泌乳期純エネルギー予測値(NEL; B)。重回帰予測モデルから得られたパラメータ推定値。実線は本試験で給与した飼料 CP の範囲を表す。点線は本研究で給与した範囲外の飼料 CP を示す。
〇は予測される最大反応するCPのレベルを示す。△と▢はそれぞれ予測された最大反応の95%信頼区間の下限と上限を示す。このモデルは、試験飼料を連続 8 週間給与した 62 頭の牛に対応する 496 件の観察に基づく。
このグラフの見方:
120DIM において最大値と差がないと予測されるCP 濃度の範囲はMilk NELでは 16.2%△から18.4%▢、210DIMになると最大値と差がないと予測されるCP濃度の範囲の下限が下がってくる。
270DIMにおいて飼料中のCPが最大値と差がないと予測される範囲は、Milk NELで15.5%~18.3%で、予測される最大値は16.9% CP であった。
→この結果は、泌乳後期の牛では、飼料CPが15.5%以下になるまでFPCMが最大値から低下しないことを示唆したBarrosら,2017の結果と一致している。
予測された最大値の範囲内で成績を維持できる飼料 CP 濃度の最低レベルは、飼料配合戦略、 特に代謝エネルギーおよび MP の供給と組成の同時最適化によって変わる可能性もある。商業的環境では、泌乳期の異なる時期に牛に与える実際の飼料 CP のレベルは、本研究の範囲外である多くの要因に依存して変化する。
しかし、牛の生産成績に悪影響を及ぼす危険性を最小限に抑えながら飼料中の CP を低減できる範囲があることが我々の結果から推測される。
あと、各各の結果!これはめちゃくちゃ面白い。MUNキレイに反応するなぁとか、CP18でもMUNこの程度なんだなとか、同じ餌食べさせても泌乳ステージによって乳成分がこの程度違うのかとか、面白いです。乳糖、高いけど、日本とアメリカでは分析方法が違うんでしたっけ…??…

TMRの中身と濃度

例えば今回、乳期ごとの成績に影響のないCPレベルのレンジが示されているわけですが、下の方に注意書きもありましたが、これもその蛋白のルーメン内分解速度やエネルギー飼料として何をチョイスするかによっても結果は変わってきますよね。
DIM120ではCP16.2%程度まで、DIM270ではCP15.5%まで諸々条件が合えば、落としても成績に影響ないレベルまでCPを下げれると理解しました。
蛋白の分解速度がめっちゃ早いものを、ギリギリのCPレベルまで下げて入れてたりすると微生物合成効率は悪くなるだろうし、逆にバイパス率がめちゃ高いものを多くしてギリギリのCPレベルにしてもこれも微生物合成効率は悪くなるだろうし。。。
ルーメン内を想像して微生物態蛋白合成量を最大化させるための、一助になりそうな論文でした!
コメント
相変わらず頑張っていますね。面白く拝見いたしました。さて私が25年くらいかな?飼料設計を行ってきた中でCPの考え方について 私見を投稿致します。私見ですよ 注意してください
①駆け出しのころは、CP濃度の考え方に縛られていました。泌乳前期はCP16.5~17%まさにアメリカの情報に沿ってバイパス蛋白を40%前後にしてこれで設計しましたね。
②MUNが測定されだしてからはCP16.5~17%を基本にしてMUNが12以上のときはCP濃度を下げて設計しました。
③大きな転機はあるTMRセンター立ち上げのとき各農場を回り現状の給与量を確認して、乾物摂取量がかなり高いこと、しかもCP濃度がほとんどの牧場で16%以下であり、乳量も牛群の状況もまずまずいい事実を知り衝撃でした15年くらい前かな?さて困った。会社での方針を変えるべきか???上司とかなりもめた記憶あります(懐かしい、これが栄養のCP濃度に対する転機かな)
④CPM、AMTSを使いMP重視にしてもどうも期待乳量が農場ごとでぶれてしまい???また肉牛肥育、育成の設計をするにあたってはまあMP期待増体があてにならないと考えました。おそらくCPM、AMTSでのMP評価はかなりセンシティブに条件設定を行い、しかも乾物摂取量が24Kg前後の牛群で精度が高いのでは?と思いだしており今ではここも参考値です。
今では乾物摂取量、MUNをみて(ただし私は乳量と牛の健康がまずまずであればMUN低値は気にしません)今では15%以下で(ただしこの場合は高い乾物摂取量でバイパス蛋白が使用されている、そして重要なことは牛の環境がいいです)
上田先生の意見
ルーメン内を想像して微生物態蛋白合成量を最大化させるため
に大賛成ですよ。
それに関連することを1つ
微生物態蛋白合成量に最も影響を与えるのは 牛のおかれた環境ですね その中でも気候 もっと端的に話せば ルーメン発酵に大きな影響を与えるのは暑熱ストレス と思っています。
ちょっとさぼりました。今後もご活躍楽しみにしています