基本に戻る②黒毛和種の初乳

もう早速基本じゃなくなってきたけど‥‥

黒毛和種の初乳のIgG濃度について気になったのでもう少し調べてみました。

というのも、今日たまたま、令和4年の酪農技術セミナーの資料を見ていたら、

初乳量の比較 ホル9.9±4.5kg、交雑 5.4kg、黒毛和種 0.8±0.53kg

初乳中IgG濃度 ホル73.1±27.9mg/ml、交雑55.0mg/ml、黒毛和種 86.2mg/ml±22.3

2003 小原ら、道立畜試

肉用子牛における下痢予防のための衛生管理技術 | 研究内容詳細 | アグリサーチャー (maff.go.jp) (引用元おそらくこれ?)

という記載が。あら、あらららら、先日紹介した報告(150-160mg/ml)の半分位です。

黒毛和種の初乳についての報告は、もし上記の86mg/mlというもの、私は原著見れていないので詳細を確認する術がないのですが(探してみます)

はたして本当にホルの2倍濃いのか、そこまでではないのか。

過去様々な数字の報告があるのはなぜなのか。考えられる仮説はこんなとこでしょうか。

1)測定方法の違い?(キット間の差を含む)

2)初乳採取方法、採取時間の違い?

3)個体・血統の差(ベースの給与飼料の差が大きく出やすい?)がホルスタインより大きい?

まずは手あたり次第、過去に報告がある黒毛和種初乳のIgG値について調べてみたいと思います。

道立畜試の報告

2005年の道立畜試の報告で、黒毛和種IgG 160.1±52mg/ml という記載もあります。新子牛の科学とかでの引用元ですね。

これは新子牛の科学の引用元は、臨床獣医2013年10月号と記載されており、10月号の記事を見るとOsaka and Kohara,2001からの引用だと書いてあるのだけど、その2001年の論文が見つけられないんです。。😿(でも時代的におそらく使用しているキットは、メタボリックエコシステムのRIDじゃなかろうかと想像するのですが。あくまで予想。)採取時間も不明です。

黒毛和種牛の初乳成分と子牛への初乳給与法 (hro.or.jp) IgG分析方法について記載がない

過去さかのぼると①

黒毛和種初乳の成分変動 (jst.go.jp)

1992年の報告、母牛の産歴は記載なし。方法はRID (キット:the Binding Site Limited)。採取時間は分娩後0.1, 12, 24, 72, 120時間が目安。採取方法と採取量は記載なし。

頭数は少ないですが、ここでは分娩後0-2時間でのIgG1濃度123±24mg/mlでした。

分娩後10-12時間以降でのIgG濃度の下がり方が顕著過ぎて驚きます。本当にこんなに落ちるんだろうか、ホルより顕著ですね。乳蛋白の下がり方とも連動しているのでこんなもんなのかな。

1992年に出されたこの文章のイントロにも子牛への初乳が足りなくて下痢してるぜ、みたいなこと書いてあるんだけど…😿令和にはそんな問題無くしたいもんですね。

過去さかのぼると②

ちょっと古くて読みづらい。 ja (jst.go.jp)

免疫拡散法、キット名記載なし。採取方法は分娩後24時間以内!(非常にラフだな…)

採取方法や量の記載は無し。経産なら100g/Lのもの(100超えてるの?!)もいるし、もっと50g/L以下の低いやつもいるが分娩後24時間以内、ということなので、なんか、まぁ、うん。。って感じです。

久米先生報告

①19頭経産の黒毛和種、平均初乳IgGは 141 mg/mL(65~208mg/mL)、分娩後1時間以内に手搾りで100mlサンプリングしています。

IgG分析はBethyl LaboratoriesのELISAキット(the Bovine IgG and IgA ELISA Quantitation Kit)です。ちなみにここでは初乳中IgGと脂溶性ビタミンが正の相関があることが報告されています。

Kyoto University Research Information Repository: Relationships between immunoglobulin and fat-soluble vitamins in colostrum of Japanese Black multiparous cows. (kyoto-u.ac.jp)

肉用牛研究会報.2015.98にも掲載。

②日本畜産学会報. ja (jst.go.jp)

黒毛和種経産牛、平均初乳IgGは97.1±13.3mg/ml分娩後1-6時間以内に手搾り、50ml採取。分析はBethyl LaboratoriesのELISAキット(the Bovine IgG and IgA ELISA Quantitation Kit) 、久米先生の部屋ではこのキットが信頼されている様子。

Relationships between immunoglobulin M and immunoglobulin G or A in colostrum of Japanese black multiparous cows – Taniguchi – 2016 – Animal Science Journal – Wiley Online Library



調べたらもっとあるんだろうか、、、

とりあえずなるべく査読付きで探して見た中ではこんな感じで、何かを言うには少し文献数が少ないけれど、過去、ELISAなどでの結果が妥当だとすると、久米先生の2文献の報告された数字の差(141と97)が大きいのは搾乳時間(分娩後の経過時間)が影響しているんじゃないだろうか。

キット・測定法間の差は過去の文献は特に、同一検体を同じキットで調べられない以上分からないのだけど。。。

141mg/mlのほうは分娩後1時間以内に搾乳、97mg/mlのほうは分娩後6時間以内に搾乳となっている。昔の1992年の文献では分娩後10時間で17mg/mlと下がっているし。

またこれらを読んでいて、黒毛はホルに比べてもIgGが分娩後、搾乳(哺乳?)回数ごとに下がっていく、その下がり方が顕著なのかなとも想像しました。

ホルだと1回目の搾乳でとれるIgGは、分娩後52時間で出す全IgGの中の割合とすると1/4程度という報告もあり👇、意外と移行乳にもそこそこIgG入っているのではと思うのですが。

Transition milk has a lot of immunoglobulins – PRO DAIRY – Southwest New York Dairy, Livestock & Field Crops Program – Cornell University – Cornell Cooperative Extension

今のところ、ここまで見た文献間での差は、「搾乳時間」が黒毛和種の場合ホルよりもかなりシビアに影響するのでは、と考えました。

また分析方法はELISA,RID色々ではありますが、初回の初乳は140mg/ml程度と思ってよいのではないか。。と、現時点では考えています。

それにしても、なぜ黒毛は初っ端だけガツっとIgG濃くて、その後すぐストンと下がるのでしょう。ホルより病気がちなんだからずっとIgG高くしておいてあげたらよいのにね。何かこれにも生存戦略的に意味があるなら面白いです。なぜなんだろう?!

しかしこういった数字を出すというのは本当に研究って1つの論文書くのも滅茶苦茶大変だけど、それがおおむね一般的である、というためには、いくつもの論文を積みかさねて、信頼度を高めて、やっとモノが言えるんだよなぁと改めて実感すると、研究者って本当にすごいです。NASEM読んでても、いくつもの根拠を積みかさねてやっと「こうだ!」と言える、というのを見ていると、イヤー凄い。

分娩後の経過ごとの乳中のIgGの測定も30年前の報告なので、実際、今の牛でも同じなのか、興味があるところです。うーーん、自分でやってみたい!!

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