不飽和脂肪酸の水素添加経路
しつこいですが、不飽和脂肪酸がルーメン内でどのような経路をたどるか、は以下リンクの通り。
簡単に言うと餌の中に入ってる脂肪には「飽和脂肪酸」と「不飽和脂肪酸」の主に2種類の形態があって。特にその中でも「不飽和脂肪酸」ってルーメン内で毒なので、ルーメン細菌がちゃちゃっと毒じゃない形態に変えるよう頑張る(化学的に言うと水素添加する)んですが、形を変えるのって大変なので、不飽和脂肪酸から変形されていろんな形態の派生物が生まれてくるんですよね(共役リノール酸:CLAとか)。一応最終的には飽和脂肪酸(ステアリン酸)が出来るんですが、最終形態までたどり着かずに色んな形態の派生物のまま吸収されることもしばしば。
それで、その派生物の中にめっちゃ乳脂肪低下に働くような物質も生まれてしまう(一部のCLA)、そいつはルーメン内から吸収されて乳腺にいって乳脂肪合成する酵素を邪魔するので、乳脂肪低下の超大きな要因と考えられています。
じゃあどうやったらその乳脂肪低下させるCLAが出来にくくなるか?
「乳脂肪脅威」なt10経路と「乳脂肪フレンドリー」なt11経路
簡単におさらいすると、ルーメン内でルーメン細菌によって不飽和脂肪酸(特にリノール酸)の処理される経路は左の正常経路で処理されれば、乳脂肪を低下させるCLA(共役リノール酸)は生まれないのに、右の代替経路のほうにいっちゃうと、乳脂肪低下させるCLAが生まれちゃう。
どっちの経路も、リノール酸をルーメン細菌が色々と変形させていった結果なんですがどんな細菌が関わるかというのが左と右ルートの違うところ、そして結果的に出来るものも変わってくる。右ルートになるべくいかせたくないですよね。

正常経路から代替経路にスイッチするキッカケは何か
というのが、今年のフロリダRNSにてTom Jenkinsによって講演されていました。彼の文章はほんと分かりやすい。以下の内容は全て彼の講演から。原文を読みたい方はこちらから
Factors that modify rumen fatty acid flow versus feed input. Tom Jenkins(Clemson Univ.)
/2020Florida ruminant nutrition symposium 31st Annual Meeting.P52-65
まずルーメン内に流れ込んだ不飽和脂肪酸は、ルーメン細菌に水素添加されるものの一定量を超えると、ガツッとルーメン内濃度が上がってしまう可能性:不飽和脂肪濃度のスパイクが起きる。
これによって(不飽和脂肪酸は抗菌性があるのでルーメン内濃度ががつっと上がることによって)、正常経路(t11)にかかわる細菌ががつっと死んでしまう:そして代替経路の細菌は不飽和脂肪酸の抗菌性にも耐える!ことが多いので、結果的にt10経路(代替経路)に不飽和脂肪酸は流れていく、という感じ。
実験によっては200gの不飽和脂肪酸をルーメン内に投与すると5分以内にルーメン内容物の不飽和脂肪酸濃度が最大になった例も。
普通の飼料設計だったら、不飽和脂肪酸は大体メニュー中に1日400-700gくらいかなぁ・・・だから日本でも200gが一気にルーメン内に流れ込むシチュエーションっていうのも、無きにしも非ずって感じです。
不飽和脂肪酸の抗菌活性の特徴
不飽和脂肪酸の抗菌性の4つの特徴があるようです。
1、不飽和脂肪酸の抗菌活性はとっても速い。がつっとルーメン内で濃度が上がれば、さくっとt11ルートに関わる細菌は死んでしまう可能性あり。
2、不飽和脂肪酸による抗菌活性にt11ルートの細菌は強く、t10ルートの細菌は弱い:全ての菌に対してその毒性は公平ではなくて、特に正常ルートt11に関わる細菌に対して選択的に働く可能性(なんでだ?!)
3、不飽和脂肪酸の中でも二重結合が多いほどより大きい抗菌活性をもつ(不飽和脂肪酸にもいろんな種類があって、二重結合が多いほど、つまりオレイン酸C18:1よりもリノール酸C18:2のほうが抗菌性強い)
4、抗菌性の閾値はルーメン環境によって変動、低pHと乳酸の蓄積によって不飽和脂肪酸の抗菌効果は高まる:不思議です。一定の不飽和脂肪酸濃度で必ず菌に有害なわけではなくそのルーメン内の環境によってどのくらいの濃度になったら菌にとって有害かが変わってくるようです。そして、低pHかつ乳酸が蓄積する状況;つまりルーメンアシドーシス時などでは、より少ない濃度でその抗菌性を発揮出来るようです(なんでだ?!)
まとめ
てことで、不飽和脂肪酸から乳脂肪を低下させる共役リノール酸を作らない、つまりt10経路にいかせないためには、
1)飼料中の不飽和脂肪酸濃度を下げる
2)抗菌性の閾値を下げるために(不飽和脂肪酸の抗菌性を発揮させない)低pH、乳酸の蓄積を避ける;つまりルーメンアシドーシスにさせない
というのが重要なよう。
結局、過度な脂肪添加を抑え(特にRUFALの値を上げすぎない)&アシドーシスに陥る時間が最大限少なくなるよう配慮:バッファー(重曹とか)足したり、長い粗飼料置いたり、消化しやすい繊維増やしたり、頻回給餌にしたりとかとかetc…
てことで、農場でやることはこれまでと変わらないけど、メカニズムが分かって満足。
ただしなぜ不飽和脂肪酸はt11細菌に選択的に働くのかとか、アシドーシスがその抗菌性を高める要素になるのか、とかは不思議なので気が向いたらもっと勉強してみよう。書くとやっぱり脳内整理になる!
あとはRUFALのとこでも書いたように、飼料原料の形態がどれだけルーメン内への脂肪流出速度に関わってくるのかはとっても知りたい。
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