Calf Note 200 – Pasteurizing colostrum – an update
以下は、http://calfnotes.com/pdffiles/CN200.pdf を翻訳したものです。原文著者Dr. Jim Quigley の許可を得て日本語訳を掲載しています。 引用論文の出典元は原文をご参照ください。
内容総括:”清潔な初乳”、総菌数が15,000cfu/ml以下、大腸菌数が1,000cfu/ml以下の初乳は、パスチャライズの恩恵を受けないかも。
はじめに
初乳、それは分娩後最初に作られるミルクであり、子牛にとって不可欠な、栄養素、免疫成分、成長因子やホルモンなどの複雑な混合物です。これまでたくさんの研究が、初乳の細菌汚染(特に糞便中の)によりIgGの吸収が低下し、劇的に子牛の健康状態が悪くなるリスクが高まることを示しています。初乳はとても細菌が繁殖しやすいです。微生物混入の程度は、初乳が搾乳時から保管までどれだけ注意深く取り扱われたかにかかっています。
これまで初乳のパスチャライズは細菌混入を減らしIgG吸収を促進することが示されてきました。初乳を60°で60分温めることは、総菌数を減らし、IgGの吸収効率を15-25%改善します(Johnson et al., 2007;Elizondo-Salazar and Heinrichs, 2009; Kryzer et al., 2015)。
The research 調査
Journal of dairy scienceに掲載されたペンシルバニア大学の研究(Gelsinger and Heinrichs, 2017)では、初乳のパスチャライズとその効果(初乳の品質、IgGの吸収)に関して追加の研究が報告されています。この研究結果は他のものと異なり、興味深いものでした。
研究者たちは、試験前に各牛の初乳を集め凍結し、トータルで114Lの1回目に絞られた初乳を収集しました。すべての初乳は融解し混合したのち、再凍結したものを対照区(CON)、パスチャライズし凍結したものをパスチャライズ区(PAS)、としました。そしてすべてのサンプルの総菌数とIgG濃度をモニターしました。
ホルスタインの新生子牛(26頭)にそれぞれ体重の8%量の初乳を分娩後可能な限り速やかに給与し、すべての子牛が4.5時間以内に給与されました。血液サンプルは分娩後24-48時間後にサンプリングされ、血清中IgGを測定しIgG吸収効率を計算しました。
The results 結果

初乳のパスチャライズは総菌数を平均10の4.1乗から1.3乗まで減らしました。一般細菌数でいうと、パスチャライズ前は12,589cfu/mlでしたが後には20cfu/mlでした。
明らかにこの試験で使われた初乳はパスチャライズ前から非常に清潔で、十分に注意して採取されていました。我々は一般的に細菌数が100,000cfu(10万cfu)以下であれば許容範囲と考えています。
初乳中IgGは10%近く減少しており117.3から106.3g/Lになっていました。IgGのロスは顕著でしたが、それでも十分初乳中のIgG量はとても多かったです。この研究では60℃1時間の初乳の加熱が初乳のIgG濃度を減少させうることを示しています。
子牛は体重に応じて初乳を給与されたため、給与量は子牛によって異なりました。パスチャライズした初乳はパスチャライズに伴いIgG量が低下したため、PAS区の子牛はIgG摂取量がわずかに低下しました(図1)。しかし、PAS区の子牛は、血清中IgGも吸収効率(AEA)も、CON区(対照区)と比べても差はありませんでした。
この研究において初乳のパスチャライズは、わずかに初乳中IgGを減少させましたが、子牛の血清IgG濃度は増加しませんでした。なぜ、パスチャライズによって吸収効率(AEA)が良くなるというこれまでの他の研究結果と異なるのでしょうか。いくつかの可能性が考えられます。
まず最初に、この試験で使われた初乳は非常に清潔であったということ。パスチャライズ前ですら総菌数、大腸菌数が非常に低かったです。これは、”清潔な初乳”、つまり総菌数が15,000cfu/ml以下で大腸菌数が1,000cfu/ml以下の初乳は、パスチャライズの恩恵を受けない可能性を示しています。過去の初乳のパスチャライズに関する研究は往々に殺菌前の菌数が高い初乳を使っていました。
血清IgG濃度、IgGの吸収効率もパスチャライズの影響を受けませんでした。全体的に子牛は疾病に対抗するのに十分なIgGを吸収していました。
細菌混入は著しく子牛の初乳からIgGを吸収する能力に影響を与えます。しかし、初乳が十分慎重に集められ清潔かつ衛生的に扱われていれば、パスチャライズの価値はそこまで高くないかもしれません。
翻訳ここまで。
初乳をパスチャライズすることの弊害??
ここで紹介されていたGelsingerとHeinrihcs,2017の論文を読んでみました。↓
ざくっと前述の部分以外を要約すると、「初乳のパスチャライズ(60℃、30-60分)は一般的になってきてアメリカでもおおよそ20%で行われているけど、熱で初乳中の免疫成分(IgGのみならずサイトカインとか生理学的活性蛋白)に影響はないのか、それを飲んだ子牛では免疫応答に影響はないのか、やってみた。プール初乳を対照区とパスチャライズ区に分けて、色々計った(IgGとか菌数は上記を参照)。免疫応答測定にはオバルブミン(卵白抗原)を子牛に投与して免疫反応を測定。基本的には対照区とパスチャライズ区で免疫応答にも違いは見られなかったけど、オバルブミン投与後の回復が対照区で早かった(ADGの回復早かった)。パスチャライズした初乳の給与は免疫に影響はないけど、回復に影響はあるかも」という感じ。
とりあえず今のところ、パスチャライズした初乳とそうでない初乳、それぞれを子牛の免疫反応に違いはないと理解しておく。
オバルブミンチャレンジ云々、理解が難しい。子牛がもともと持っていない抗原を注入してそれに対する抗体産生を見ることで免疫反応を試験したと理解しておく。
あと、細菌数15,000cfu以下ならとあるものの、10,000cfu以上だと子牛に悪影響という報告もあるので、やっぱり個人的には常にパスチャライズしたほうがいいと思う。
雑記:IgG 測定キット(Gelsinger and Heinrihcs,2017より引用)
意外とIgGの測定を請け負ってくれるところって少なくなりました・・・311前までは日本のメーカー(メタボリックエコシステム)でRIDキットが購入出来ましたがもう日本でキットを製造しているメーカーって無いのでは。一応キットごとの特性についても文献に記載あったため忘備録として記録。
- 初乳 IgG 測定においてELISA は RID と比較して IgG 濃度を過小評価することが示されており、方法間の値を直接比較することは推奨されない (Gelsinger et al., 2015b)。
- RIDは公表されている研究で最も一般的に使用されている方法、初乳の品質およびIgGの受動的移行測定時に最もメジャー(Pritchettら、1994; Tylerら、1996; Bielmannら、2010)。
- ただし最近では ELISA 法による値も報告されてる
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