乳糖

改めて勉強しなおすか~なんて軽い気持ちで勉強しはじめたら、乳糖も沼だった・・・😢

深い沼のまずは一歩、入口。

1,乳糖合成

乳糖がなぜ大事なのかというと、乳量に直結するから!

乳糖の合成がどのように行われるかは、下記の通り。

Just a moment...

乳成分の合成:(乳糖)

乳腺の乳腺上皮細胞の模式図。下から、血管、細胞の基底膜、色々なレセプターがあって細胞内に取り込まれたグルコースが、一部、ガラクトースに変換され、ゴルジ体の中のゴルジ胞でガラクトースとグルコースから乳糖が合成される。そしてそれが水を引き込みながら、図の上の方の管腔に乳糖+水を分泌してる。

乳腺での乳成分の分泌の全体像 生化学の授業を思い出すなぁ・・・

特に乳糖に関わる部分だけクローズアップしてみる

https://journals.physiology.org/doi/full/10.1152/physiolgenomics.00016.2015

乳糖合成

(引用)乳腺上皮細胞の基底膜で吸収されたグルコースは、リン酸化されてグルコース-6-リン酸となり、さらにウリジン-2-リン酸(UDP)と結合してUDP-グルコースとなる。

その後、UDP-グルコースは、細胞質内のUDP-グルコースピロホスホリラーゼ2(UGP2)とホスホグルコムターゼ1(PGM1)によってUDP-ガラクトースに変換され、UDP-ガラクトース輸送装置2(SLC35A2)を介してゴルジ体に入る

ここで、β1,4-ガラクトース転移酵素1(B4GALT1)α-ラクトアルブミン(LALBA)からなるラクトース合成酵素により、1分子のUDP-ガラクトースと1分子のグルコースが結合してラクトースが合成される。(引用終了)

乳糖合成酵素

乳糖の合成に必要なのは、グルコース、ガラクトース、だけではなく、乳糖(ラクトース)合成酵素というものも必要になります。

このラクトース合成酵素というのは、ガラクトシルトランスフェラーゼ(GT)ともう一つはホエー蛋白のひとつでもあるα-ラクトアルブミン(α-LA)からなる。GT(ジャイアントトレバリーではありません)はゴルジ体の内膜に固定されており、もともとはグルコースと反応しにくい酵素であるが、これにα-LAが結合すると、グルコースに対する親和性が増して、UDPガラクトースとグルコースが結合して乳糖が出来る。

ゴルジ体の膜グルコースUDPガラクトース透過させるが、乳糖は透過出来ない

そのため乳糖が合成されたゴルジ体小胞は浸透圧を一定にするために水分を吸収して膨らみ、ゴルジ体から分離して、腺胞腔側に上昇、乳糖は乳蛋白と同様に細胞膜から開口分泌される。

Dairyjapan 乳牛管理の基礎と応用 P140

こんな感じで皆さんご存知の通り、乳糖はグルコースから乳腺で作られる、グルコースは肝臓でプロピオン酸から作られる、プロピオン酸は主に穀類:デンプンからルーメンで作られる、と、乳糖の由来をたどるとこんな感じになるので、例えば乳糖が低い=穀類給与が少ない、と考えるわけですが、それだけじゃない。乳腺で乳糖を合成する酵素、これもキモ!

乳腺でのα-LAが乳糖合成度合をコントロールします。

α-LAは泌乳中の乳腺のみで合成され、インスリン、ハイドロコルチゾン、プロラクチンのようなホルモンによって制御されます。逆にプロジェステロンはこれを抑えるため、妊娠した後は乳糖合成が減少し、乳生産が低下します。

乳糖は乳腺の細胞で乳蛋白質と一緒に合成されます。

Dairyprofessional 2019.vol14 P70

ホルモンによってαLAの合成量がコントロールされている、乳糖合成量がそれらによっても変動する、という可能性を頭に入れておきたいところです。

2,インスリン、成長ホルモン、グルコースの取り込み

乳糖の合成について勉強していると避けて通れないのが、インスリンによるグルコースの取り込みの話。ホルモンによって制御されているという上記の話も含めて、すべてのカギは「ホメオレシス理論!」

これは「優先される生理学的プロセスをサポートするために行われる体組織における代謝の長期的な調整」のこと。なんだそうです。

ホメオレシス理論

Bauman博士の超凄い理論だけど、安井先生の記事が超絶分かりやすいのでおススメ。

https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010870780.pdf

まずはホメオレシスって何?って方は安井先生のHPを↓ご参照

ホメオレシス理論について
酪農科学における重要理論の一つホメオレシス理論に関して説明しています。

栄養素の使われ方、すなわち栄養配分は、生産ステージによって優先順位が決められているはずです。その配分機序を明らかにしたのがホメオレシス理論です(Bauman and Currie ,1980)。

https://dairyconsulting.wixsite.com/dairyconsulting/homeorhesis 安井先生HP 技術情報

成長ホルモンはホメオレシス制御で鍵となるホルモンの一つで,特に乳牛の周産期の栄養素分配に重要な役割を果たす。具体的にはインスリンとカテコラミンの反応性を変えて,泌乳へ栄養素とエネルギーが優先的に使われるように働く。

畜産の研究第 67巻 第 11号 (2013年)p. 1074-1080 ホメオレシスについて

「周産期から泌乳ピークにかけてなぜ泌乳量が増えるのか」、という極めて単純な問いに対しての明確な解答がありませんでした。

泌乳後期において成長ホルモンを投与すると「周産期を再現する」ことが実証されており、その理論の正しさが確認されています

https://dairyconsulting.wixsite.com/dairyconsulting/homeorhesis 安井先生HP 技術情報

インスリンレベルとその反応性の低下:

血中成長ホルモン(分娩直前から増加しその変化は分娩後50-60日まで続く)が高い間、血中インスリンは低いことに加え,肝臓,筋肉,および脂肪組織でのインスリンへの反応性が低くなる。その結果,血中グルコースは乳腺組織(グルコースの取り込みにインスリンを必要としない)で優先的に取り込まれる。

畜産の研究第 67巻 第 11号 (2013年)p. 1074-1080 ホメオレシスについて

一般的によくインスリン抵抗性とかっていう話はあるけど、じゃあなんでそういう機構があるの?っていうとこういう理論がベースにある、というのは全体を捉える上で絶対知っていないといけないこと、ですよね。

そのうちきちんとBauma博士の元の論文を拝読しようと思います・・・!

高泌乳牛では・・・

泌乳量の多い乳牛ほど成長ホルモン(GH)分泌とインスリン抵抗性が高く、栄養素を体への蓄積ではなく乳生産に効率的に分配している

http://www.naro.affrc.go.jp/archive/nilgs/contents/1st_stage/0402/index.html  農研機構

インスリン抵抗性という言葉の使い方には注意したいけれど、言いたいことはわかる・・・高泌乳牛ほど成長ホルモンがガンガン出ていて、泌乳初期はまず泌乳に全振りしている、ということですね。

こういうのを見ると、フレッシュ期のメニューやピーク時のメニューも、アシドーシスには留意だけど、乳量多い牛ほど成長ホルモン分泌多い=インスリンで乳腺以外の組織への取り込みは押さえたい、という乳腺にグルコースをいかに供給するか、という牛サイドからの内分泌アプローチを見ると、やはり設計側からやってあげれることとすると、プロピオン酸を多く供給して、グルコースをたくさん作れる餌を供給してあげること、が必要なのだと感じる。

これまでの私の認識、()内は私の加筆

泌乳後期の牛はインスリン感受性が高く血中グルコースを体に蓄積させる。よって泌乳後期では乳糖合成が低下し、乳量が減る。

(泌乳初期~ピークは乳腺以外の組織のインスリン抵抗性が高い=インスリン感受性が低い、から他の臓器に取り込まれない分、乳糖が乳腺に優先的に配分される)

https://www.dairyherd.com/news/nutrition-hot-rations Dr.マイク・ハッチェンス

これまでこれくらいの認識だったのですが、その上位には、ホメオレシス理論というものがあり、牛の泌乳ステージにおける泌乳、成長、増体、妊娠に優先順位をつけているということ、それは成長ホルモンをはじめとする、様々な生理活性物質により制御されていること、を改めて認識しました。

コメント

  1. 内田勇二 より:

    素晴らしい。乳糖についてこれまでつたない知識で色々と検索していましたが、多くの疑問が理論的に解決。これはいいです。是非一度、○○塾にて講義をお願いしたいですね。

    私は乳成分の合成をいかにコントロールするかがコンサルの仕事と思っています。

    泌乳前期の乳量の伸び、光周期やBSTにおける成長ホルモン分泌と乳量の関係、プロジェステロンの乳量抑制に関することなど非常に解かり易いですね。脱帽です。

    脂肪細胞から分泌されるレジスチンや泌乳最盛期、あるいは乾乳期に分泌されるインシュリンの量など一言でいえばホメオレシス理論になるのかな?

    バルク乳での乳糖を注目すると、確かに4.5以上(4.55ぐらい)で一定の牧場と4.5以下の牧場の違いは何かなといつも考えていますが・・何となく北海道の場合、グラス地帯は4.5以下、コーンS多給できるところは4.5以上みたいな感覚がありますが?どう思います?私だけかな。

    あとインシュリン抵抗性は今の乳牛が遺伝的改良で獲得した形質かなとも思っています。
    続編期待します。いつも素晴らしい情報ありがとうございます。

  2. Risa より:

    コメントありがとうございます!

    滅相もない、どうも今年は残念ながら先生の塾にはお伺いできなそうですが、またこういったことを議論したいですね!
    脱帽なんて滅相もない、私はただ論文読んでいるだけでして、こういった概念を見つけ出す、また日本に紹介してくれた先生方は凄いなぁとただただ感服です。

    乾乳期~泌乳期のインスリンなんかも正に、ホメオレスにより制御されている因子ということで間違いなさそうです。

    グラス地帯はやはりプロピオン酸供給源が少ないことが要因なんでしょうね!先生のおっしゃるとおりデントコーン地帯ではグラス地帯より高めと思いますし、内地の配合多めであれば更に高くなる傾向にあります。

    インスリン、どの臓器にいつ、優先的に糖を分配するか、ホメオレシスで制御されているであろうこれらの感受性、感応性の反応について、また改めていつか勉強したいと思います。

    こちらこそ、いつも多々アドバイスありがとうございます。

  3. ウチダユウジ より:

    内田塾は来年もやりますよ。ただ今年の内田塾の開催にあたり、ワクチン接種されている方で、開始時に抗原検査キッドで簡易に検査頂いて参加との形かな?ただ会社の意向とご本人の意志ですから。当然緊急事態宣言等の状況が優先しますけど

    まあ楽しみにしています

    そうそう乳糖でした。私は今デンプンの消化率が高いことがカギかな?などと思っていますよ。コーンSの実のデンプンの消化率(発酵性)は最強かなとも?圧ペンコーンでは勝てませーんなどとも。それと当然 牛の健康ですね

    早くコロナ収まり、農場で牛を見ながら栄養談義したいですね。○○さんもご一緒に

  4. Risa より:

    そうですね、私は今年は首都圏はちょっとまだ落ち着かないでしょうし、無理せず来年に期待です!
    うふふ、デンプンの消化率、これはまた掘れば掘るほど面白いですよね。
    そうそう、牛の健康が一番ですね!是非是非、いいですね、論文を読むのも楽しいですがやっぱり牛を見て、バーンミーティングが一番です!

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