糖についての追加の記事がすっかり遅くなっていました。夏は、糖や、溶解性繊維、特にいいよね・・・
そんな糖の給与と乳蛋白の関係について、いくつか報告があったのでまとめてみました。
乳蛋白は乳脂肪ほどシビアに求められませんが、牛の状態、ルーメンでの栄養素の利用状況を見るには、これも良い指標ですよね。
最初にまとめ
・糖の給与で微生物態蛋白が最大化、よって乳蛋白を上げる、アプローチが可能
・乳蛋白はエネルギー濃度と関連 プロピオン酸→グルコース→インスリン→蛋白合成増加
・糖はプロトゾアにも有用かも、繊維の消化性上がる、菌体蛋白の合成量を増やすには糖以外の炭水化物の条件も必要:発酵性デンプンと発酵性溶解性繊維の推奨濃度は下の方にある図1の通り
1.糖の給与は乳蛋白を増やす(Dairyherd.2021.4.21)
引用開始
・オランダで乳蛋白を増やすためウェットのビートパルプを給与している農家もある
・糖分や溶解性繊維の多い飼料を給与すると経験的に高蛋白になる
・糖蜜とシトラスパルプを多く給与するフロリダや、糖蜜やビートパルプ、アーモンドハルを給与するアリゾナ州では中西部などサイレージ主体地域より乳蛋白が高い傾向
・今年フロリダではトウモロコシ価格高騰により、飼料の糖分レベルを高める試みがある
・多くは給与飼料全体の設計として糖分が10%、デンプンが20%台後半、NDFの多くは糖分の多い副産物由来
・これらの設計で乳量は変わらず、一般的にTMR中の糖濃度は5-7%が推奨されるが、牛が大量の糖分を摂取しても問題ないことを確認
・放牧草を摂取している牛では20%以上の糖分を摂取している可能性
・砂糖は発酵して酪酸になり、乳酸にはならないため、アシドーシスの問題はほぼない
ソースの紹介
・文献紹介1:Dr. Mike Van Amburghは、Balchem Real Science Lecture Series(2020年8月号)で、乳タンパク質と糖質に関して以下を報告:発酵性の糖分と水溶性繊維が微生物の収量を増加させ、乳タンパク質を増加させます。
・文献紹介2:de Ondarza、Emanuele、Sniffen が発表した最近の研究 (The Professional Animal Scientist 33:700–707) によると、乳タンパク質の収量は、全飼料中の糖が乾物の6.75~8%の時に最大となることがわかりました。
引用終了
ということでこの中でも2つ、文献(というかソース)の紹介があったので、それぞれ見ていってみましょう!
2.乳タンパク質と利益を増やす、今日から実践できる3つの戦略(Dr. Van Amburgh,Real Science Lecture Series.2020.8)
バルケム社のこのリアルサイエンスレクチャーシリーズはかなり贅沢!
引用開始
・以前は蛋白とエネルギーの代謝は別と思われていたが相互作用があり、乳蛋白は飼料中の蛋白濃度よりもエネルギー濃度と関連する。乳蛋白を増やしたいならエネルギーを増やせ
・プロピオン酸は肝臓でグルコースに変換され、インスリンの分泌を刺激する
・インスリンの分泌は、乳腺での蛋白合成を刺激する
・エネルギー摂取は肝臓からのIGF1の分泌を刺激する
・子牛でも代用乳中のCP摂取量の多い子牛ほどIGF-1が摂取量の少ない子牛よりも高くなり、血漿IGF-1も高くなる。これは蛋白質を増やすと、肝臓がアミノ酸を認識して、「お前はもっとたんぱく質を作れる!」と言っている状況であり、 乳牛でも同じことが起こっている
・インスリンやグルコースを増やすと、給与蛋白質の量にかかわらず、蛋白質の合成量が増える
・乳蛋白をふやす=微生物の合成量を増やすこと=つまりルーメン内微生物、プロトゾア、バクテリアに十分なアミノ酸、アンモニア、そしてルーメン微生物が利用しやすい炭水化物の供給が大切。また今ではバクテリアやプロトゾアがリサイクルされたアンモニア以上に内在性蛋白も利用することも分かってきている。
・これが答えだ!↓
・(1)微生物態蛋白を最大化させるために、発酵性デンプンはそこまで高くしたくない、むしろ発酵性糖を高めることを重視する。糖の多くは酪酸になる。
・(2)発酵性溶解繊維は5-6%DM
・(3)hooverらの試験でもTMR中糖が5-7%で菌体蛋白の収量と繊維の消化性が改善、我々も同じことを確認。線維の消化性が悪い時にここを調整することがある。なぜかは不明だが、酪酸が増えると間違いなくルーメン微生物が増える。またプロトゾアは繊維の消化が得意だが、プロトゾアにも消化の速いエネルギーは必要なのかもしれない。
図1、給与飼料全体での菌体蛋白最大化のための推奨
(上田注釈※あくまでアメリカの知見、日本で完全にこれが当てはまるかは給与メニューの違いがあるので一概にはいえないので、あくまでアメリカの参考値として見てくださいね)

引用終了
3.飼料中の糖分の増加が乳生産に及ぼす影響(The Professional Animal Scientist 33:700–707)
引用開始
・24の科学論文(97件)から飼料の内容と乳生産に関する影響を混合モデル線形回帰分析で調査
・飼料中の糖分には、乳量33kg/d以上の牛がより顕著に反応(乳量増)
・飼料中の糖分は乳脂肪(%)乳蛋白(%)比率には影響なし、3.5% FCM 収量に正の効果を持つ栄養変数はデンプンとタンパク質 B2であった。
・非線形統計解析により、最適な糖質は総飼料中6.75%(DM)と予測。
・糖を添加した場合の3.5% FCM収量を最適化するためには、低〜中程度のデンプン飼料(22〜27%DM)と、中〜高濃度の水溶性繊維(6.0〜8.5%DM)を組み合わせて与える必要がある。
引用終了
EUのようなチーズのあるような国は蛋白収量もとても大事なんでしょうね、日本だと乳脂肪みたいなペナルティはないので、そこまでシビアにもとめられませんが、でも、栄養設計上、菌体蛋白を最大化させる設計というのは、ルーメンをフル活用する上ではとても重要!
といっても、ただ糖を足せば全て解決するわけではなくてそれ以外の、炭水化物、特にデンプンや溶解性繊維なんかとのバランスも大事!すべてはルーメンに生きる微生物たちをいかにフル活用するか、という点につきますね!
コメント
以前、CPMがNFCの分画で糖を明確にしてから、興味を持っていましたがその反応がまちまちで難しいかなとも思っています。おそらく他の栄養素との組み合わせもかなり重要な気がします。
個人的には乳蛋白率は給与される蛋白源のバランス(バイパス、アミノ酸等)が大きいのではと思いますがインスリンと肝臓の関係は面白いですね
上田先生のコラムはウイリアムマイナーの再来ですね。
ありがとうございます。多くの酪農関係者が恩恵を受けられると思いますよ
内田先生
コメントありがとうございます!
北海道のような自給飼料主体地域では、糖はそこまで多くならなそうですね
都府県では輸入乾草、特にオーツなどを使ったり、糖を含む副産物を使うと結構乾物で6-7%程度までいくことも間々ありますが、栄養素当たりのエネルギーが高いため、ついたくさん使いたくなります
滅相もない、私は年代的に全くウイリアムマイナーには参加できていませんでしたが、あの当時だからこそ、情報が限られた中で、最先端に触れることが出来る、という一種の熱狂感みたいなものもあったんでしょうね